由木礼
木版画『マユ』
……由木さんには独特の抽象話法があった。例えば「今日は一日ぼんやりと窓の外を眺めて過ごす」などと言う代わりに「繭(cocon)の中にいる」と言う。由木さんにとって「マユの中」は、心地よい環境の中をあらわす極めて抽象度の高い抽象概念に当たるから、凡百の半ば具体的、半ば抽象的な概念は総て無用だった。「マユの中」という極めて具体的な「もの」が、彼の精神を介すると極めて抽象的な概念の表現となる。
「マユの中」が抽象性を生む過程を見ると、由木さんの画が具象的な表現を越えて極めて抽象的な図の組み合わせとなる過程には、大きな必然性が潜んでいることが分かる。しかも由木さんの抽象的な図柄には、大きな発展 » 続きを読む