フィーチャー

鶴見和子
『虹』

鶴見和子さんとたまたま同じテーブルについたことがあった。『心の花』の何かの祝いの会であったのか。『心の花』とは近代短歌の先駆者のひとり、佐々木信綱先生の「竹柏会」という短歌結社の機関誌であり、明治31年創刊、最も伝統のある歌誌ともいえた。今は思想家、社会学者である鶴見さんが、かつて少女の日、その「竹柏会」に所属し、信綱門下として歌を学ばれたことがある、という程度の知識はわたしにもあった。 中略 その鶴見さんの同じく少女だった日に、『虹』という一冊の歌集がある。昭和14年8月、「竹柏会」刊行となっているから、集められている作品は10代の終りから20代の初めにかけてのものなのか »続きを読む

由木礼
木版画『マユ』

……由木さんには独特の抽象話法があった。例えば「今日は一日ぼんやりと窓の外を眺めて過ごす」などと言う代わりに「繭(cocon)の中にいる」と言う。由木さんにとって「マユの中」は、心地よい環境の中をあらわす極めて抽象度の高い抽象概念に当たるから、凡百の半ば具体的、半ば抽象的な概念は総て無用だった。「マユの中」という極めて具体的な「もの」が、彼の精神を介すると極めて抽象的な概念の表現となる。  「マユの中」が抽象性を生む過程を見ると、由木さんの画が具象的な表現を越えて極めて抽象的な図の組み合わせとなる過程には、大きな必然性が潜んでいることが分かる。しかも由木さんの抽象的な図柄に »続きを読む