その他

笠井叡
『Akira Kasai’s Androgyny Dance』

「先日さる舞踏の会が終ったあと、神楽坂の酒場で打ち上げをやっていた時、適当にみな酔い始めた頃、話がいつしかイナガキ・タルホのことに及んだ。近頃めっきり白髪が光り始めた種村季弘氏に、「いったいタルホの“無底”の観念はどこから来たものか。」ときかれて、私は曖昧に「それは謡曲的な日本の夕暮れの空…」などと答えていると、氏は「フン!」とひと息いれて、「あれは関西人の持つ独特の宗教観じゃないのかなア。」と述べられたのであった。…イナガキ・タルホは一秒前の過去に三十年前の、否三千年、三万年…前の郷愁を語らせているのである。人間における数千年の歴史の夢は、物質においては瞬間の夢に過ぎない »続きを読む

前田静秋
『のくちゆるぬ』

NOCTURNE—an einer frau—   繊月 クリスマスの夜更 ヒマラヤ杉 の影絵に 北方の空がいやにあかるい ――粉雪(ゆき)のふりやんだ 下界   そのとき おまえは 白衣をまとって 愁うるとなく 薄青い眸をあげ どこ かしらない 夜の彼方をうかがうのだ   ピエロオの踊りはやまず 消えがてに うたごえつづき そして わたしたち はなにをかたつたのだろう・・・   いつか年老いている 銀の髪 さらさ らと風に鳴り いろいろなふしあわせ と みえない夢のはなばな ものがた ることは もの倦いこと »続きを読む

時里二郎
『胚種譚』

肖像 Ⅰ ――北川健次氏のために イシミカワの実のこぼれる黄金のせつなに鱗翅類の繭が割られ 少年は掬われた水のように生誕する 透かされた静脈の内部で 非在のアオサギが目覚める時 さらされた少年の上腕は蒼穹を孕む 魚たちを漁る裸樹のように少年の掌はひとしきり水の翳りの重さに 揺らぎ ひれやうろこのない魚たちの夢をすべらせる 細長い 螺施を下るオルガンの風に促されて 少年の指は羽繕う嘴のように 胸を擦過する 非在のアオサギの棲む少年の肖像に一本の 見えない腐刻画の線が引かれる

安斎重男
『オマージュ: イサム・ノグチ』

イサム・ノグチさんのこと Isamu Noguchi 「私がイサムさんと初めて会ったのは、73年の日本橋にあった南画廊での個展の時でした。そのあと、あちこちで少しずつ会いましたが、85年、ニューヨークに滞在中『アート・フォーラム』という雑誌から、ロング・アイランドに出来て間もないイサム・ノグチ・ガーデン・ミュージアムのフォト・エッセイを頼まれたんです。 早速イサムさんに電話でOKをもらい、機材を運び込んだわけです。このミュージアムは、どう並べたら作品のコンセプトがよく見えるか、イサムさん自身の手で、永い時間をかけて陳列されたと »続きを読む

『ロセッティ詩抄』

序のソネット ソネットは一刹那の銘文・・・「魂」の永遠から 滅しても滅しえぬ末期に亘る記録として、見よ、 そのあるべきやうは、祝祭にも、はた凶會日にも、 ふさわしく、つつましやかに、たじろがぬ熱意に 充ちたおぼえ書き。晝と夜との現実の差別をみせて、 象牙にあるは黒檀に彫り刻み、東邦の匂に潤む 真珠もてその歌の髻華をちりばめ、最高の 精妙な技の不朽さを「時」に示してあれ。   ソネットは一個の泉貨、その表には心霊を象り、 うち返しにはそれぞれの「権能」に属する刻印がある。 「生命」の止むに止まれぬ願望には貢物として、また 「戀」の派手な行列には引出物として奉仕する。 »続きを読む