青柳恵介
『風の男 白州次郎』

1990年、カバー(少汚れ)、初、私家版、菊版 

00円 (在庫なし)

“昭和史の隠された巨人”の人物像を、夫人である白州正子ら多数の知人の証言でたどる(新潮社版帯文より)

「・・・白州次郎の口から時にnoblesse obligeという言葉が発せられるのを聞いたと証言する人はobligeなどと言いながら、一種の使命感をもった素振りをされたら、何とも気障で歯が浮くような印象を与えるだろう。しかし、白州次郎の生涯を眺めわたしたとき、彼が身をもって実行し、己を律し、さらには高い立場にいる人間を容赦なく叱りつける際の言葉として浮かんでくるのは、不思議なことにさらりと気障な衣装を脱ぎ捨てた、このnoblesse obligeという言葉である。おそらく彼は、この語を受動的に解することをせず、きわめて攻撃的な語として用いたのである。十年近くイギリスに遊学し、ベントレーやブガッティーを乗り回す生活をしたという特権を、何らかのobligeとして社会に還元せねばならないというふうに考えたはずである。

後年、彼の交友関係の伝を頼んでやってくる人間が便宜をはかって貰った礼に金品を持参したりすることがあると、次郎は“馬鹿野郎、俺は大金持なんだ。そんなもの貰えるか”と怒鳴りつけるのが常であったという。その乱暴な言葉の裏側にもnoblesse obligeの攻撃性は一つの思想として生きていたと言うべきであろう。・・・」