「聖なる森を吹いてきた風
せせらぎに首をふった菫の花
彫像のひとみに残っている狩りの思い出
雲間からさんさんと洩れる光が
それらすべてをつつみ
今このひつぎのなかにとじこめる夏の音楽
そしてぼくはひつぎ釘づける
人々はだまりこくって道を進んだ
あるものはひつぎをかつぎ
あるもんはそのあとにつづいた
道はわだちのあとを交錯させ
そのままに凍りついて歩みは苦しい
鐘が野末をわたっていた
君を送ろうモーツアルト
君を送ろう夏の空をみたした言葉たち
そしてぼくは
鐘の音にひつぎを釘づけた金槌の思い出をこきまぜながら
口ずさむ
おおモーツアルト
おぎすすき手折りよりそえ
初秋の稲穂をさわに
捧げよう
おおモーツァルト
うなじ片ぶせ
いのりわびつつ」
『モーツァルトの葬儀』より