加藤 克巳
歌集『宇宙塵』

加藤 克巳
1915年生まれ、2010年没。歌人。シュールレアリズムの影響を受けた作風が特徴。主な仕事に『螺旋階段』(1937年)、『球体』(1969年)など。
瑛九
1911年生まれ、1960年没。本名・杉田秀夫。若年の頃より、『アトリヱ』『みづゑ』などに批評を執筆。デモクラート美術家協会創立(1951年)。油彩、フォトデッサン、版画などを通じ、独自の創作活動に携わる。

1956年 書肆ユリイカ 限定50部 函(背少焼け) 瑛九銅版画2葉 サイン無

9万円

「なにか心のうちに絶えず戦ひつづけてゐるものがある。ときにまんじとなって狂ふのだが、それでもときには、のどかな様式の美をあこがれてゐるとみえることもないではなかった。だが、いづれにせよそれが、更におどけてみせるまでのふてぶてしさ、達観の後に来るユーモアー、といったものにまで達するにはまだほど遠く、さういつた時にゆがんだ嗤ひをもらして、とみ角心のとがりに抵抗して来たのであった。
これらの歌が作られた期間には、死の灰が降りそそぎ、不安がいかりにたかまってゆく過程を、まざまざと体験したのであったが、一方個人的にも、企業のまさに破滅に陥ろうとしたひと時を経て来たのであった。
生活と、その生活の背後につながるぬみさしならぬ時代を鋭く抽象して、更にこれを具体を通じて表現しようとしたのであったが、つまりもう少しいへば、抽象と具体のぶつけ合ひ、結びつき、統一といつたことをやろうとして来たのであったが、ここに伝統としての短歌性の問題、殊に用語と形式の問題が、ぼくを絶え間なく苦しめつづけた。此の時に最も必要としたのは意志の力であったのだが、意志がどのように美を生んでゆけたであろうか。・・・
瑛九のあのフォトデッサンといふものの不思議な魅力にひきつけられたのは、昭和十二年頃であつたろうか。此のたび、その瑛九氏の最新作を以てカバーならびに口絵を飾りえたことは、ぼくにとって何よりの喜びである。それに特製本にはエッチングのオリジナルを二葉までも附すことが出来たといふことは、おそらく歌集でははじめてのことだろうと思ふ。外国では詩集に画家の直筆を挿入することは、はやくから行はれて来たのだが、此の企てを積極的にすすめ且つ実行に移していただいた瑛九氏に、心から感謝いたしたい。いふまでもなく瑛九氏は、日本の前衛絵画のすぐれた先駆者の一人で、いまは日本より外国に於て高名な世界的芸術家である。」(「あとがき」より)