佐藤春夫
『詩集:魔女』

佐藤春夫
1892年生まれ、1964年没。小説家・詩人。代表作に『田園の憂鬱』(1919年)、『殉情詩集』(1921年)、『晶子曼陀羅』(1954年)など。
川口 軌外(軌厓)
1892年生まれ、 1966年没。1920年代、パリでアンドレ・ロート、フェルナン・レジェ、マルク・シャガールらに学ぶ。帰国後の1930年代、独立美術協会の結成に参加。フォービズム、キュビズム、シュルレアリスムなど当時の新しい絵画表現を吸収しながら、独自の作風を築く。

1958年 大雅洞 限定150部内刊行者用試作本5部の5番
佐藤春夫ペン署名 天金表紙総皮装 函 
川口軌厓銅版画3葉

13万5千円

現代のダンテ

「昔祝福されたフロオレンスの大詩人は

さる純潔なる処女の手びきにより

肉体を着たままの姿で地獄と天国とを

経めぐって来たとかいふ話だが いま

ここに祝福されたひとりの莫迦な男が

さる淫蕩なる肉体の手びきにより

天国と地獄とをまのあたりに生きたといふ

魔女

さる年若く美しきあやかしの女は

瞬間に死に瞬間に復活する かの

摩訶不思議なる霊術の秘技を

子に授けた かかる幾日かのサバトの後に

彼女は箒に跨つて行方も知れず」