飯島宗享
『自己について』

1989、私家版、初、アンカット、表紙・扉絵:松野安男、四六版、285P

2,500円

”自己とは何?”という本質的な問いに関し思索を促す書。のちに青土社から市販された。「これから人間的自己についての哲学的考察ということでお話いたします。人間の自己という問題をめぐって、これまで私が考えてきたことの総まとめともいうべきものを、ここを場所として試みようと思っております。要点は≪自己とは何か≫という問題を、実存的自己を中心に、多くの相貌を思い合わせつつ哲学的に考察することを通じて、哲学の、とくに人間にとって哲学の何たるかを講じること、というようなことになります。・・・

人間は、母親の体から切り離され、オギャーと産声をあげたそのときから、社会という枠のなかで生き続けるように限定され、成長とともにその枠を拡げ、世界を広くしながら生命を維持し続けます。置かれた社会のなかで、自分の位置を見つめ、自分の存在を主張しようとなにがしかのことをなし、外下によって生じるさまざまなことによって規定される。おそらくは自分を外下にかりたてた意図とは結果として異ったものになるその規定は、引き受けざるを得ないものでもあろうし、すべてを受けて立とうとしたところでなお残るものもあるわけです。それにこだわりつつ、社会に向かって新たに自己主張という外化を行なう。この行為それ自体と、その行為に至る背景の、情報を受け取り、判断し、効果を探りつつ行為を選択し決断するという行為の過程とに、存在の限界があり、この限界を越えて人間はあり得ない。つまり、この有様のなかで、そのつどそのつど、それぞれの人間がそれぞれの場で、自己を自己たらしめ、死ぬまでそれを続けて人間として生きてゆく。これでしかないわけです。」