鶴見良行
『ココス島奇譚』

1995、みすず書房、カバー、帯、初、四六版、188P

1,000円

遠くインド洋に浮かぶ孤島ココスの隠された歴史を捉える。
「・・・サバのココス島移民で特徴的なのは、かれらがマラヤ語を母語とするムスリムでありながら、サバに溶解してしまわずに、どこでもココス集団を維持していることだ。しかもそのまとまり具合、つまりアイデンティティはココス島民であることを中核としている。大昔日本列島のどこかに一粒の原種があって、そこからヤマト民族が生まれてきたと日本人は信仰しているようだ。ところがココス島ではほんの一五〇年の昔、つれてこられた奴隷や囚人の子孫がその無残な歴史からアイデンティティを創造し、今もそれを“ココス村”として守っている。まことにヒト属は尋常ならざる存在である。こうした現実の国際状況を私たち日本人はどう理解したらいいのか。一九九三年は国連の≪世界先住民≫の年であった。植民地主義者に収奪・抑圧されたアメリカ・インディアン、オーストラリアのアボリジニー、日本列島のアイヌの人々だけを列挙しても、いわゆる文明国民が先住民への配慮を欠いたのは明らかである。しかしココスでは、奴隷から出発した一五〇年の過去を基軸にアイデンティティを創造しようとしている。ココスの孕む文化的意味は、私たち日本人がそれを≪遅れた人々の出発≫として見過ごすのか、それともこの≪地球のさまざまな生きざま≫としてみずからをかえりみるよすがとするかに掛かっている。ココス村アイデンティティの形成を学ぶことは、世界のなかで日本を相対化していくことに通じる。・・・」