河合隼雄
『生と死の接点』

1989年、岩波書店、カバー、帯、四六版、358P

1,000円

さまざまな意味での接点の仕事である心理療法の角度から、老い、生、死の意味について考える。
「現代はあらゆる面において、≪境界≫ということが大きい問題となりつつあると考えられる。いわゆるフロンティア精神は、既知の領域から≪辺境≫に向かってゆく、という意味であったが、ここに取りあげている≪境界≫は、既知の領域と既知の領域の間にある一本の≪線≫として、≪領域≫であるという認識さえなく、あまりにも自明なこととしておかれたものである。その自明な線は果してそれほど自明であったろうか、という疑問があちこちに生じてきて、それはそのような区分によって保たれているかに見えた秩序を根本的に揺がすほどのものとなりつつある。・・・近代科学の絶頂とも言えるのが二十世紀とすれば、二十一世紀はおそらく、そのパラダイムの変換が意図されることになりそうである。そのためには、二十世紀の科学において、明確に領域を区分する≪線≫としてみられてきた境界を、≪領域≫として見直し、その領域の探求に挑戦してゆくことが必要である、と考える。・・・夢こそまさに≪境界≫存在の典型のようなものである。それは意識と無意識との境界にあるだけでなく、心と体、自と他、生と死などの境界にも関連してくる。夢のなかではこれらが錯綜して不思議な映像をくりひろげる。夢はたましいの言語であり、つまり、境界について語る言語なのである。・・・」