山口昌男編著
『知の狩人』

1982年、岩波書店、函、本体経年少焼け、菊判、276P

1,000円

山口昌男による世界的知性との対談集(ウンベルト・エーコ、ジュリア・クリステーヴァら12名)

「・・・
山口:今日的な意味での安定した宇宙。偶然性を排除して、日常生活の必然性のメカニズムの中に我々をのっけてどこかへ運び去ってしまう力と、これをつき崩そうとする予測不可能な要素の二頭立ての馬車の御者のような働きを我々はしている。

ベロ:手前味噌になるかも知れないけど、人類学の教えのよい部分はそういうところにあるね。個人の危機、文化の危機を介して混沌と直面する技術というのは精神分析や人類学が開発したものだ。ただし、個人の危機というのは精神分析医や診療室以外で扱われるべき時期にさしかかっている。この点については既にいったから繰り返さないけどね。危機というのは精神分析医の考えの及ばないほど美しく、創造的で、危険なものだ。

山口:危機こそ我々を周縁の世界に導き出し、社会を異る視覚で再検討させるきっかけを与える。知識人というものに役割があるなら、そうした危機に人を直面させる仕掛をさまざまな次元で考案するところにあるのではないかと僕には思われる。

ベロ:そこで話は、再び、逸脱に立ち返ってきた。最もラディカルな≪知識人≫というのは逸脱への通路を絶えず開いている人間ということになるね。

山口:これで、君のテーマからのメッセージが出てきた。日本からみて地球の裏側の国の知識人である君の立場がこれほど、我々のそれに近いと思わなかった。

ベロ:それは僕たちが共に、知識の世界では周縁に位置しているからではなかろうか。

山口:ありがとう。

『逸脱の人間科学―ジルベルト・ベロ』より