E. H. ノーマン
『クリオの顔』

1956、岩波書店、初、全体に少経年シミ、新書版、230P、大窪愿二訳

00円 (在庫なし)

歴史の女神(ミューズ)であるクリオに託し、人間性を深める学問としての歴史に関するハーバート・ノーマンの随筆・講演集。「・・・歴史にはいったい主流とか統一的テーマというものがあるのか、という人があるかもしれない。そこで私は、正しい遠近法―というのは遠い背景をいうことが多いのだが―から見るならば、歴史の中心問題は、民族の場合でも国家の場合でも、変化の性格を発見し説明することであると、大胆ながら答えたい。変化というのは、文明の勃興であり没落である。都市の発展であり荒廃である。一つの社会組織については階級の変化である。制度についてはその形式ばかりでなく内容の変化である。また一時代の知的、道徳的、宗教的状況の変遷である。決定的な問題は、表面の迷わされやすい変化と深部の、したがって見つけにくい、しかし永い目でみると最も決定的な性格をもった変化とを区別することである。歴史の重要問題は変化という至上の問題になんらかの形で関連しているといってもあまりおおざっぱにすぎまいと、少なくとも私には思われる。・・・」

(「クリオの苑に立って」より)

【関連書】

加藤周一編『ハーバート・ノーマン:人と業績』(2002年、岩波書店、初、カバー、帯、四六版、323P) 1,000円

なぜ、いま、ノーマンか? 30人の識者が歴史家ノーマンをさまざまな角度から論じる。

「・・・ノーマンの学問全体に際立つ特徴は、彼の瞠目すべき初著『日本における近代国家の成立』の洗練された形式にすべて表れている。彼は、修辞的でなめらかな序文に長けており、それは残念ながら現在ではめったに見られない特徴である。西欧史を知り尽くしているからこそ、彼の描く日本像は奇怪さや不自然さを感じさせない。そして常に暗黙のうちに権力の有効な使用と濫用についてバランスのとれた理解を示している。しかし日本に関するノーマンの著書が色褪せない魅力を持つのは、『日本における近代国家の成立』に始まり『安藤昌益と日本封建制度の分析』に至るまで一貫して見られるように、常に歴史と現実の関係についての鋭い意識があるからだ。それは彼の著作全体に流れる基礎低音のような特性である。彼は歴史家であると同時に外交官としての人生を送ったが、歴史家としての彼の書物自体に必ず二重の趣旨があった。彼は、よりよい世界の実現を期待し、できることなら、その実現を助けたいと、過去を理解しようとした。・・・」

ジョン・W・ダワー「生きた歴史家―E・H・ノーマンと日本」より