永田茂樹
『距離』

永田茂樹
駒井哲郎
1920年生まれ。1976年没。版画家。代表作に『束の間の幻影』(1951年第1回サンパウロ・ビエンナ-レで受賞)。1972年東京芸術大学教授。銅版画の草分け的存在。

1964年 昭森社 限定29部2番(家蔵扱)
総皮装 函 駒井哲郎銅版画1葉 (12cm x 8.5cm)サイン有

00円 (在庫なし)

邂逅Ⅰ

あなたは

こうして待っている

わたしのこころのせつなさを知らない

だからことばの修正ばかりしている

あなたは

こうして待っている

わたしのこころの貧しさを知らない

だからそぶりばかりみせて通る

あなたは

あなたが与えた果実の

その生育を知らない

いま なにもかも

活人画のように わたしから

遠ざかり

ガラスの容器に入れられ その日から

わたしはみつめるひととなる

あなたは

あなたのまなざしひとつで

このガラスが溶けることを知らない

だのに

あなたは

傷をなでにくるばかり

邂逅Ⅱ

暗闇のなかで

とても期待できなかったが

強くにぎりかえした人

あなたは何処へ行ったのか

どんなにせがんでもあなたは

ついにその顔を見せてくれなかった

暗闇に浮かんだ

乳房は

夢だったのか

出て行くあなたを追って

ぼくはひとすじに歩いた

町の大通りに追いこして

ゆっくりふりむいたのだが

ふりむいたぼくの脳裡に

あなたは枯葉のような笑いを見せて消えた

じんわり

とよみがえる

あなたとの邂逅を

あなたは知らない

『距離』より