橋本一明
『モーツァルトの葬儀』

橋本一明
1927年生まれ、1969年没。フランス文学者、詩人。『純粋精神の系譜 橋本一明評論集』 ( 1971年)、『アルチュール・ランボー』( 1978年)
駒井哲郎
1920年生まれ。1976年没。版画家。代表作に『束の間の幻影』(第1回サンパウロ・ビエンナ-レで受賞)。1972年東京芸術大学教授。銅版画の草分け的存在。

1971年 母岩社 限定60部内10部(非買本)+別冊(エッチング用紙が60部本と異なる) 背皮装 函 駒井哲郎銅版画1葉(14cm x 8cm)サイン有

18万円

「聖なる森を吹いてきた風

せせらぎに首をふった菫の花

彫像のひとみに残っている狩りの思い出

雲間からさんさんと洩れる光が

それらすべてをつつみ

今このひつぎのなかにとじこめる夏の音楽

そしてぼくはひつぎ釘づける

人々はだまりこくって道を進んだ

あるものはひつぎをかつぎ

あるもんはそのあとにつづいた

道はわだちのあとを交錯させ

そのままに凍りついて歩みは苦しい

鐘が野末をわたっていた

君を送ろうモーツアルト

君を送ろう夏の空をみたした言葉たち

そしてぼくは

鐘の音にひつぎを釘づけた金槌の思い出をこきまぜながら

口ずさむ

おおモーツアルト

おぎすすき手折りよりそえ

初秋の稲穂をさわに

捧げよう

おおモーツァルト

うなじ片ぶせ

いのりわびつつ」

『モーツァルトの葬儀』より