福永武彦
『芸術の慰め』

1965、講談社、初、函(背少焼け)、帯、菊判、286P

6,000円

福永武彦による西洋画家論。
「芸術作品とは人類の所有した素晴らしい遺産であり、その時代ごとに人間の魂を表現したものである。時代は移り変り、人間の感じかたは風俗や表現技術や社会制度や思考方法と共に変って行く。しかし芸術家がその作品を生み出す時に発揮した魂は、常に変らない力を保存している筈である。古典的な傑作は、厖大な群小作品を洗い流す「時間」に逆らって、それだけの存在理由を持って残っている。・・・

私は数年にわたってサナトリウムで寝ていたことがある。またその後もしばしば病気のために床を暖めた。その時、一冊の画集、或いは一冊の詩集、或いはラジオのレシーヴァから漏れてくる音楽の流れは、私に生きることの価値を教えてくれた。芸術は確かに一つの慰めである。それも人を生へと導く強い伴侶である。単に苦しい時悲しい時の慰めというだけではない。私たちは芸術作品の中に、直接私たちを揺り動かす魂の羽ばたきを感じる。それは生きることの愉しさを私たちにしらせて、魂の領域をひろげ、やわらげ、高めるものである。」