阿川弘之
『カリフォルニア』

1959、新潮社、初、函、帯

00円 (在庫なし)

「私の、吐き出しやうのない不満足感をいま一つ挙げるとすれば、それは人種問題である。自分が日本人である事を、しばしば特別な意味で意識させられる事があった。

私は日本では、少くとも伊吹山丸で横浜を離れるまでは、自分が日本人だといふ事に格別の誇りも持たなかったかはり、別に卑下した心持も持つていなかった。私たちの年代の者が誰でもさうか知らないが、敗戦後の学生生活のせいで、日本人意識といふものが希薄であった。

ところがロサンゼルスで下宿探しを始めてから、私ははっきり其の壁にぶつかり、自分が日本人だといふ動かしやうのない事実を、いやでももう一度自覚せざるを得なくなった。つまり、自分が日本人だという事で、到る所のアパートメントや下宿で入居を拒絶される経験をしたのだ。此の事は、其の後も永く、私の心にアメリカに対するしこりとして残った。・・・」